有機JASと自然農法の違い


 最近、自然農法で作った野菜(果樹)は腐らないで「枯れる」、有機農法で作ったものは腐る、と言い張る方(サイト)をよく見受けます。またFacceBookでそういったことを広めてる方も見受けられます。そこでそういった誤解を解く意味でも「有機JAS農法」「有機農法」「自然農法」の似ている部分と異なる部分について説明します。

■自然農法と有機JAS農法
 自然農法と言われる農法の開祖は二人あげられます。一人は伊予市出身の福岡正信氏。1947年に不耕起農法:『無耕起・無肥料・無除草・無農薬・無剪定』を提唱。日本の有機農業のさきがけといわれています。
 もう一人は世界救世教創始者の岡田茂吉氏。文献によれば1942 年から実験的に作物を作り始め、1950 年から「自然農法」へと改称したとされています。
 現在、自然農法を謳う方がいずれの<流派>の継承かは一人一人にお伺いしないと分かりません。共通するのは化学的に合成された農薬や化学肥料、土壌改良剤を使用しないで栽培する点です。この点は有機JASに基づく生産方法と同じです。また、自然農法を営む方の中には「有機肥料」は使用しない、ここが「有機農法」と大いに違う点である、と主張される方もいらっしゃいます。
 実はこの点が大きな間違いなのです。こういう場合の「有機肥料」は「牛糞や鶏糞」などの狭義の「有機肥料」を指しているようです。有機農法はこの狭義の有機肥料を使うのでよろしくない、という訳です。ところが本講座を学んだ人や有機JAS規格をしっかり読まれた方には分かりますが、有機JAS規格では牛糞や鶏糞などの有機肥料を使え、」などとはどこを見ても書いていません。有機JASで一番推奨される肥料は、有機JASに認定されたほ場で取れた作物の残さや付近に生えている植物の残さです。ただし、天候不順などの予期せぬ出来事で作物の生育がおぼつかない場合などには「已むを得ない場合に使用が認められる肥料」があり、その中には牛糞なども含まれています。已むを得ない場合には使用してもいい肥料をリスト化したものを『別表』と呼んでいます。この場合でも「完全発酵」したものに限られています。有機JASという言葉のイメージから「(狭義の)有機肥料」を使う農法と勘違いしてるのだと思います(意図的な方もいらっしゃるかも知れませんが、私が接触した方の多くは有機JAS規格を読んでいませんでした)。
 ちなみに有機肥料の分類は次のようになります。

  有機肥料           油粕
                 魚粕
                 糠
                 堆 肥
                 馬糞
                 牛糞
                 鶏糞
                 人糞尿(下肥)
                 骨粉
                 肉骨粉
                 草木灰
 有機肥料=牛糞や鶏糞でないことが分かりますね。この中に「堆肥」とありますがこれは本来は植物や動物などの有機物を原料とし有機物を完全に分解(発酵)させたものを指します。「たい肥」と書く場合は本来の「厩肥」つまり家畜の糞尿を原料するものを指していました。これだけ見ても「有機肥料を使うから良くない」と主張する人の論拠が間違っていることが分かります。
 自然農法も農薬や化学肥料をふんだんに使う「慣行農業」に比べればはるかに素晴らしいものだと思いますが、有機JASと大きく異なる点があります。自然農法の場合はこだわりを持たれて作っておられる方が多いですから、「私が作っているのだ」という信頼の上に成り立ちます。つまりその人を信じることが大切になります。一方、有機JASの場合は登録認定機関という第三者機関が検査をして規格を守って作っているか厳しくチェックしています。つまり利害関係のない第三者が認定する点が自然農法にはない点です。さらに有機JASの場合は、種苗の入手先から栽培-収穫-保管-包装-輸送の全行程での作業内容を文書記録され、きっちり管理されています。畑から収穫したものを分別する場合にも、ベニヤ合板から放散するホルムアルデヒドなどの有害化学物質に汚染されないように収穫した後にも厳しい決まりがあります。

 また、有機JASではほ場だけきれいであればいいのではなく「周辺」からも有害なものに汚染されないよう厳しく決められています。例えばゴルフ場では約50種類の農薬を使用してますので、それらに汚染されないようになっているか、また近くに松林があるが防虫剤が散布されていないかなどもチェックされます。
 有機JAS農法も自然農法も考え方は近いのですが周辺や収穫後、輸送時、梱包時まで規格が定められている点はずいぶん違います。
 もう一つ、いわゆる有機農法というものは民間でいう場合と国が定めた「有機農業そ推進する法律」で規定する有機農法とは違います。言葉が同じなので本当に分かりにくいですね。有機推進法で定めている有機農法と有機JASで定める有機農法の共通項は「自然性生態系に負荷を掛けない農業生産の方法」です。いわゆる有機農法とは、その言葉を使う人によって意味合いが違うので正しく指摘することは難しいですが共通項は「化学肥料や農薬を使用しないで有機肥料(多分牛糞や鶏糞?)を使って栽培する農法」になるでしょう。
 ざっと述べてみましたがこの中で本当に信頼出来るものはどれになるでしょう? 自明ですがここから先はご自分で判断していただくことになります。

■自然農法で作った果物は腐らない?
 最近、FaceBookで「自然栽培、無農薬、無肥料の野菜は腐らず枯れるそうですね^^」という書き込みがあったそうです。「自然農法で作った果物は腐らないでしぼんでいくが、有機農法で作ったものは腐る」とまことしやかな噂が拡散しているようです。結論から言うとこれはまったく間違いです。自然栽培、有機栽培、有機JAS栽培であれ無農薬、無肥料栽培であれ、慣行栽培であれ、果物も野菜も有機物ですので最終的には腐ります。
 そもそも植物の腐敗とは、「腐敗細菌、真菌、酵母など微生物によって、生物由来の有機物、特にタンパク質などの窒素を含んだ有機物が分解されること」と定義されています。微生物の繁殖で腐るわけですから、本来なら、殺菌剤、除草剤、防虫剤の役目を持つ慣行農業で作られた野菜や果樹の方が腐らないのではないでしょうか。例えば、アメリカから輸入されるオレンジにはイマザリルやOPP(オルトフェニルフェノール)、TBZ(チアベンダゾール)といった防カビ剤が塗られています。ポストハーベスト(収穫後農薬)です。アメリカから日本に送られるオレンジのほとんどに塗られているものです。防カビ剤ですから農薬ですね。しかしこれが日本に入ってくると「食品添加物」に化けます(笑)。簡単に言えばアメリカの圧力ですね良心的なスーパーや生協ではアメリカ産の果物に、「OPP、TBZ不使用」と表示しているものがありますので注意して見ててください。こういった果物はなかなか腐りません。また、私も自分で慣行栽培のリンゴ(約13回農薬散布)を台所に放っておいて確かめました。1週間たっても腐らずしぼんでいくのもあれば打ち身があったのか脇から腐り始めるものもありました。有機栽培された果物でも腐るのと枯れたようにしぼんでいくものとがあります。自然栽培の果物や野菜は腐らず枯れる」というのは信じたい人に訪れる神話のようなものかもしれません。決して科学的とは言えませんね。

 野菜や果樹は有機物ですから腐敗菌がつけば腐るのは当たり前です。有機肥料を用いるから腐敗するというのは誤りです。有機物だから腐敗するのです。

 こういった話を聞くたびに残念に思うのは、農薬や化学肥料をできるだけ使わないで頑張っている同じ志の生産者の側からこのような非科学的な話しが出ることです。最近も驚いたことがあります。講演でご一緒した有機の生産者の方が、自分の有機(有機JAS)栽培は無農薬でやっているが普通の(?)有機JAS栽培農家は農薬や有機肥料を使っているので駄目だ、と堂々と講演されたのです。食の安全・安心、環境保全を目指す生産者群は、従来の慣行農業生産に比べれば皆さん立派な志の方たちです。同じ方向を目指しているはずの仲間から、身内を貶すような話はあまり聞きたくないですね。慣行農業と比較して話すべきだと思います。

 やや雑感風になりましたが、講演やセミナーでいつも同じような質問が出るので簡単に纏めてみました。

                                         山崎 泉記